音楽を録音するのは、後で聴くため。今では当たり前のことだが、世界最古級の音声記録は、そもそも再生することを目的としていなかった。
1860年4月9日、フランスの発明家エドゥアール=レオン・スコット・ド・マルタンヴィルは、フランス民謡「月の光に」の歌声を記録した。
使われたのは「フォノトグラフ」という装置。音によって振動する膜の動きを、すすで黒くした紙の上に線として描く仕組みだった。
驚くことに、この装置には音を再生する機能がない。発明者が目指していたのは、音を目で観察することだったのだ。
それから約150年。2008年に研究者たちは、残された線をデジタル技術で解析し、当時の歌声を再生することに成功した。
録音した本人さえ聴けなかった音が、時代を越えて現代によみがえったのである。